家族


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明日はまた雪になるという予報を聞いて
義母は「小屋」に入っていった。
実際は母屋とドア一枚で続いている物置なのだが
昔、漬物や冬じゅう食べる野菜は、義父手づくりの小屋に保存していた。
改築して母屋の一部にした今でも、義母はこの物置部屋を小屋と呼んでいる。

小屋は火の気がなく寒いし、じゃがいもの芽取りなら私がやるからと言っているのに
今日のうちにやってしまいたいと思ったのだろう。
冷たいコンクリの床に、郵便局からもらった簡易椅子を置いて腰をおろすと
あとはもう、いくら「私がやるから」と言ってもきかない。
仕方ないので、あとちょっとで終わるところだった家計簿を閉じて小屋に行った。
おかあさん。
いつもそうやって無理して、明日絶対、具合が悪くなるんだから。
おめぇが忙しいからオレがやってやろうと思って、と私のせいにするんだよねえ。
ああもう、いつもこうなんだから、と心の中でぶつぶつ文句を言う。
でも、これが義母なんだからしょうがない。
それに、義母の「いつでもいい」は「今すぐ」のことなのに
つい、後回しにしていたのがいけなかったんだ。

義母の前にしゃがんで、大きな袋からじゃがいもを取り出しては、伸びてきた芽をかく。
夏に収穫したじゃがいもは数種類もあって、まだいずれもたっぷり在庫がある。
菜っ葉も大根も南瓜もまだたっぷりある。
今頃まで置く野菜は、もう触れたくないほどに傷み始めているのだが
食べ物のない辛さを知っている90歳の義母は、なんでも簡単には処分しない。
義母の気持ちもわかりながら、それでも、あーもう、と思ってしまったりもする。

芋は冷たいし、手が真っ黒になるので、私はゴム手袋をしているが、義母は素手だ。
たいていの作業を、義母は素手でする。
「仕事は手袋なんぞかけては出来ねぇ」
義母の手の指はすべて曲がっている。手袋は、はめられないのだ。
いつ曲がったのかなあ、夢中で働いてきたから覚えねぇ、と笑っている。


時々ふっと、不思議な気持ちにとらわれる。
この山の中で生きていることに。
この義母と、家族になったことに。
それまでの私の人生では、会うことのないような人だった。
それは義母にとっても同じだろう。
私以上に、戸惑い、腹立たしいことだってたくさんあったはずだ。
でも、ひとつ屋根の下でこうして一緒にいる。

義母が今朝、「オレがいなくなったら、さびしいぞ」と笑って言った。
本当にそうだろうな。おかあさんがいなくなったら、さびしいだろうな。
時間をかけて、私たちは家族になったんだな、と思った。
泣いたり怒ったりしながら、だから家族になれたんだな、と。





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Commented by poirier_AAA at 2016-03-22 19:24
わたしのことが書いてあるのかと思いました(笑)
ちょうど週末に義両親とあってきたところなのです。わたしは一緒には住んでいないから少し違うかもしれませんけど。

>時々ふっと、不思議な気持ちにとらわれる。
この義母と、家族になったことに。
それまでの私の人生では、会うことのないような人だった。

わたしもそっくり同じことを感じています。最初はものすごく戸惑ったし、今でもむっとすることもよくありますが(笑)、義父と義母を知ったことで世界の見え方が確実に変わりました。うまく言えませんけど、めぐり合わせてもらった、自分に足りてないところを教えてもらうために巡り合った、というような気がするんです。縁は不思議なものですね。
Commented by pallet-sorairo at 2016-03-22 20:02
>義母が今朝、「オレがいなくなったら、さびしいぞ」と笑って言った。
そう言いながらお義母さんは
「おめえがいなかったら、オレはさびしかったぞ」って言っておられるような気がします。
なんだか胸がいっぱいになります。
Commented at 2016-03-23 07:04
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by saheizi-inokori at 2016-03-23 10:28
泣けました。
年を取ると指がねじれる病気があります。
私の小指は第一関節にコブができてまがっています(両手とも)。
Commented by kotoko_s at 2016-03-23 10:48
☆梨の木さん
義両親さま、お元気で何よりですね。
わが家は、穏やかな義父とやんちゃな義母というカップルだったのですが、義父が他界してから、それまで見えなかった義母の意外な一面を知りました。
どちらかというと、強い人の前では自分を隠していた私が、義母とはケンカしたり、本気で怒ったり、なんというか、ごまかしのきかない相手、という感じで(笑)
そうこうするうちに、いつのまにかお互いの気持ちが近くなっていたように思います。
もちろん、今も「あーもう!」ってなっちゃうことはしょっちゅうなんですけどね。それでも、自然と修復できるようになったのは、義母のおかげです。

>めぐり合わせてもらった、自分に足りてないところを教えてもらうために巡り合った、というような気がするんです。縁は不思議なものですね。

ほんとうにそう思います、私も。そう感じられることがきっと、「ご縁」というものなのでしょうね(^^*
Commented by kotoko_s at 2016-03-23 10:59
☆そらいろさん
実家に何日か行って戻ってきたら、義母が「おめぇがいないとやっぱ、すげねぇ」と言ってくれたことがあるんですよ。
すげない=さびしい、ということで、ああ、そんなふうに感じてくれていたんだ、それを伝えてくれるんだ、と感激しました。
私も少しはオトナになったのか、なんだかんだあっても、うちのバアはめごい(可愛い)なあと思うようになりました(^^*
Commented by kotoko_s at 2016-03-23 11:13
☆鍵コメさん
夫婦の間でも、そうですよね。
一緒にいる時間が長くなるにつれ、相手のいろいろな面を知って驚いたり、安心したり。
私自身はみんなを見送る役目があると思っていますが、夫はなんにも考えていないようで^^
最近よく思うのですが、誰でもその人にしかできないことを授かっているのだなと。
それが発揮できるように、ちゃんとそれぞれの場所に配置されているのだから、安心してここにいていいんだと思ったりします。

>生きているうちになるだけ相手に幸せな気持ちをあげておきたいです。

そうですね。私も鍵コメさんのように、「今、ここ」を大切にしたいと思います。
そして、感謝を伝えられるひとになりたいです(^^*
Commented by fusk-en25 at 2016-03-23 11:28
姑は40年前に62歳の若さであっという間に逝ってしまったのですが。
おそらく くも膜下出血で。。
亡くなる4、5日前にひどい頭痛を起こし寝ていたのを夫が見舞いに行って
ひどい顔をしていたと言うから。
町医者より病院に行けと勧めた。
病院では問診だけで痛み止めをとりあえず?処方され、
その晩痛みが治ったと動いた途端に死にました。
たまたまその時、私の体調が悪くて、いつもならお節介についていくのに、ついて行ってやれなかった。
もしも私がついて行っていたら。口うるさくいろいろ検査もさせて、病気がわかったのではないかと
行かなかったから死なせてしまった気がして
後々随分長いあいだ悔やみました。
Commented by kotoko_s at 2016-03-23 12:07
☆佐平次さん
そうですか、痛みやご不自由はないですか。
よく働かれた手なのですね。

結婚が決まって、初めて夫の両親と私の両親が会ったとき、義母が自分の両手を胸の前に広げて、「百姓だから」と恥ずかしそうに言ったのです。
そのときのことを、今でも母は思い出しては涙ぐんで、「会津のおかあさんを一番に大事にしなさい」と言うのです(^^*
Commented by kotoko_s at 2016-03-23 12:20
☆fuskさん
いろいろな偶然が重なって、思いがけない事態になることがありますね。お辛かったですね。
うちの夫は優しい男ですが、自分の親のことになると遠慮がちというか、多分、核心に触れるのが怖いのかもしれないな、と思うことがあります。
病院でも、耳の遠い義母のかわりにドクターと話しても、それを義母にきちんと伝えないので、義母は息子に不信感をもっていて(笑)
今は信頼のおけるヨメにつきそいは任されておりますが、姑という距離感が、こういう場面では生かされるのかもしれないなと思ったりしています。

fuskさんがお姑さんのことを「好きだった」と書かれていたこと、印象深く覚えています。
そういう気持ちって、きっと、お互いに通じ合っていることなのでしょうね(^^*
Commented at 2016-03-24 21:16
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by kotoko_s at 2016-03-25 10:49
☆鍵コメさん
おはようございます。春の雪が降って、ひんやりとする朝です。そちらはいかがでしょうか。
嬉しいメッセージをありがとうございます。
自分では気がつかなかったことだけに、そう感じてくださったのはびっくりですし、嬉しいことです。
そうですね、私もいろんなことがありましたし、今だってありますよ^^
ああ、拙いものをお手元に置いてくださって。ありがとうございます。
私もお話したいですね~(^^*
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by kotoko_s | 2016-03-22 18:15 | ある日 | Comments(12)

奥会津に暮らす


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