夢見つつ

二〇歳のとき、私たちは不死身だ。五〇歳では、人は人生にいそがしくて、終末を考える余裕がない。けれど五五歳をすぎると死の予覚のために、われわれのもっとも内奥の生活の質が変わる。(略)若いときならではの楽しみがあるように、人生の半ばを過ぎての楽しみもある。若いとき、ひなげしの花びらを通して輝く光に心を奪われる時間があったろうか。外界は、感情の広大な反響にすぎない。けれど中年の人間にとって、白い壁にまだらにうつる午後の光は、天啓と感じられるかもしれない。

                          メイ・サートン「夢見つつ深く植えよ」

メイ・サートンに出逢ったのは「独り居の日記」だ。
たぶんまだ20代だった。この本をはじめて読んだときの感動を憶えている。
「見つけた!」と思った。どきどきした。
たとえば好きなひとが読んでいた本などに特別な思い入れをもつことがあるが、それだって自分で発見したものへの愛着には及ばない気がする。
それに、この作家とは誕生日が同じだったし。

「夢見つつ深く植えよ」は、それよりだいぶあとになって読んだが、書かれたのはこちらが先。
両親が亡くなり天涯孤独になった作家は、広大な土地のついた古い家を買って暮らし始める。朝の庭を歩いて草花を摘む喜びや、個性的な隣人たちとのかかわり。荒れ果てた場所を自分の世界へと育てていく日々の営みと、この作家の終生のテーマ・孤独との対峙。
このときのサートンの年齢にようやくたどり着いて、上の言葉がかつてとは違い、実感を伴ってくる。
年相応の成熟とはほど遠いわが身には苦笑いするしかないけれど、それでも、長い道のりを歩いてきたと思う。



私たちは、ずっと年上に思えていた人々の同時代人になる。かつて先生だった人が友達になる。子供のときにはオリンパス光年ほども彼方の存在だった人が突然、実際の年齢において私たちと近くなる。私たちはついに対等の人間として話ができるようになるが、これは新しい種類の喜びだ。彼らに追いつきはじめたとき、私たちは自分が若く、相手が老人だったときにはわからなかった亡くなった人のことを非常によく理解しはじめる。          (「夢見つつ深く植えよ」)



最後の作品となった「82歳の日記」までの数冊を読むたびに、これからは自分の老いが作家に追いついていく楽しみが待っている。
長い道中には、今来た道を戻って忘れ物を探したくなる時があり、憤りや悲しみはむしろ手に負えない事態になったりもすることを、先に歩いてゆくひとが教えてくれる。
成熟とは、どんな歩みをもいとおしく眺められるようになることかもしれない。

5月になると、メイ・サートンが懐かしくなる。
今年も誕生日を迎えられたことに、感謝です。


夢見つつ深く植えよ

メイ サートン/みすず書房

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独り居の日記

メイ サートン /みすず書房

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Commented by Hana3131H at 2014-05-06 19:57
私も「独り居の日記」「夢見つつ深く植えよ」そして「回復まで」の3冊を読み、今でも時々開くことがあります。

誕生日が同じ。。。心のよりどころを得たと言う思いを強くしたでしょうね。「回復まで」の5月3日に「リトル・ロックスミスの日記と手紙」を開いていますね。

。。。。自分に対して不安や満たされぬ気持ちをいだいていると、もっと生気に溢れて表現力豊かな存在にあこがれるが、そういう秘めた思いは、誰しも心の奥に植え付けられているのだと思う。。。。太陽をふり仰ぐこと、崇められるべき徳とその輝きを愛すること、人の内面には調和のセンスがそなわっている。。。。。

kotokさんのブログの文章や絵、写真を見るとそう思います。と同時に実は私自身もそうありたいと思う気持ちを確認しています。
今日、本棚から「メイ・サートン」を再び取り出す機会を与えてくれたこと、感謝しています。ありがとう♪
Commented by kotoko_s at 2014-05-07 21:46
☆Hanaさん
メイ・サートン、お持ちでしたか。嬉しいです、この作家のことをお話できて。
「回復まで」を久しぶりに開いてみました。このときサートンは67歳だったのですね。
「今年は忍耐の年、やがて花を咲かせる柔らかな土壌を作りだす年かもしれないと思う。」とあって、励まされるような気持になります。

いつも拙いものをご覧くださってありがたく思います。
不安や満たされぬ気持の内側にこもりがちなので、調和への憧れは人一倍強いかもしれません。
人間って不思議ですよね。なぜ、自分のうちにあるものを別のかたちで表現せずにはいられないのでしょう。
こうしてわかちあう喜びを知っているからかもしれません。
私こそ、ありがとうございました♪
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by kotoko_s | 2014-05-05 12:44 | 読む | Comments(2)

奥会津に暮らす


by haru
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