ニセモノ

佐村河内守という、読み方によっては神様みたいな名前のひとが、ウソをついていたということがわかった。
私もNHKで彼のことを知り、感動したひとりだ。ニュースを聞いて吃驚した。

有名人の作品にはゴーストライターがいるというのは暗黙の了解になっていたりもするが、だから今回のこともよくあることだよ、で片付けてしまえない気持の悪いものを感じる。
その気持悪さがどこからきているのか、自分でもまだ整理できない。

まず思ったのは、誰も音楽そのものについて言わないな、ということだった。
私はCDを買うほどの関心もなかったが、実際にコンサートにまで足を運ぶ熱心なファンとなった人たちは、今回の騒動をどんな気持で受け止めたんだろう。
騙されたから怒っているのだろうが、「音楽は素晴らしい」と影武者を絶賛したひと、いるのかな。
友人は、「あんな素晴らしい音楽をつくれるのに、なんで自分の名前で出さなかったんだろうねえ」と、影武者だった人のことを不思議がった。
まったく影武者のひとだけの力であれができたわけじゃなく、こういう感じで、という注文みたいなものが佐村河内さんから出されて作ったことも明かされたので、そうなるといったい、誰が純然たる作者なのか、そのあたりも私にはよくわからない。

佐村河内さん、と今でもテレビでは言っている。逮捕されたわけじゃないから敬称がついている。これもなんだかへんな感じだ。誰も彼を尊敬しなくなったのに。

全聾で、被曝二世で、苦痛に耐えながら作曲し続けてきたという、彼の物語にみんな心が揺さぶられたんだなあと思う。純粋に音楽そのものに感動したというよりも。
芸術とはなんだろうと思う。
事前に何の情報も入れずにひとつの作品に対したときと、それが生まれた背景を知ってからそうするのと、まったく同じ状態で受けとめられるか、ということも考える。
どんな芸術であろうと作者の人生が投影されるのは当然のことだと思うし、芸術とはそういうものだと思う。苦悩の中からしか生まれ得ないものがあり、だからこそ多くの人がそこに自身の苦悩を投影したり、カタルシスを得たりするのだと思う。
でも、あの素晴らしいと絶賛された楽曲は、作者と偽っていた彼の人生とは無関係のものだった。ということになるのだろうか。そこも考えれば考えるほどもやもやとわからなくなる。
騙されたまま感動していた私は、ばかみたい、である。でも、一体、何に感動したんだろう。

障碍をもつ友人たちや、そういう子どもと共に生きている友人たちがいる。佐村河内というひとが広島や、東北の被災地の子どもたちと関わった場面もテレビで見たけれど、特に子どもたちに対してなんてことしてくれたんだと思う。「よくあることだよね」ではすませたくない、おぞましいものを今回のことに感じないではいられない。

人間ってほんとうに、すごくすごく弱いんだなと思う。虚栄心とか、過剰な自己顕示欲とか、お金とか、いろいろ。
それにしても、世間を騙す以上に、何より自分を欺き続けていることに、よくそんなに長い間耐えられたなと思う。
どんなひとだって、そんなにきれいじゃないのだけれども。
でも、やってはならないことだった。
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Commented at 2014-02-13 10:15
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by kotoko_s at 2014-02-13 15:59
☆鍵コメさん
こんにちは。おいでくださってありがとうございます。
この記事を書いた時点で聴覚のことは、はっきりわからなかったのですが、その後、本人からここ数年は聴こえていたと明かされましたね。それも本当なのかどうなのか……
作曲の偽りより、こちらのほうが罪は深いと思いました。
このことは、本当に困難を背負っておられる方々を深く傷つけたと思います。
おっしゃるとおり、今回のことで、必要なものへの認可がさらに厳しくなることが心配ですね。不安に思っておられる方がたくさんいらっしゃることと思います。そうした方々が、さらに苦しむことがあってはなりません。

他人を欺くことが平気でできるようになると、自分の姿が見えなくなるのでしょう。人間ってみんな弱いものですけれど、その弱さって、自分のために利用するものではないですよね。
当事者でいらっしゃる方々が、どれだけ悲しみ憤られたか、そして力を落とされたことか。「悲しい」とお聞きし、胸がいっぱいになります。
どうか、本当に困っておられる方々がこれ以上傷つかれることのないようにと祈っております。
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by kotoko_s | 2014-02-08 11:59 | ある日 | Comments(2)

奥会津に暮らす


by haru
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