老い

80代半ばのひとを訪ねた。はじめて会う方だった。
「よく来てくれた」「楽しかった」―帰り際に何度も言われる。
雪の舞う中を、いつまでも表に立って見送ってくださった。
胸のあたりが落ち着かないような、居心地の悪いような感じになる。
こんなに大事にしていただけるほどのことを、私はこの方にしていない。仕事で行っただけなのだ。

こういうことは今回だけではなく、高齢の方を訪ねるとたいてい、こんなふうに歓待される。
何もおかまいなく、と言う間もなく、こたつの上に漬け物や干し柿、煮物など手づくりのお茶うけが並ぶ。
春まで時間はたっぷりある、と笑いながら、話は尽きることがない。楽しい。
手仕事をお土産に持たせてくれることも度々。
もったいない、私なんかに、と恐縮すると
「子どもはみんな、いらないっていうから」―どのひとも、息子や娘は遠くで暮らしている。

実家の老親を思い浮かべる。
家にあるものを持たせようとする母に、若い私はいつも「いらない」と断った。
自分にとってそれが必要でなければ「いらない」。
母もまた、「娘はいらないって言うから」と、よその娘さんにいろいろなものをあげてきたのだろうか。

この土地に来てから、おばあさん、おじいさんの話をたくさん聞いた。
ことに女のひとの発する言葉には、体験したひとでなければ出てこない、生々しいものを感じた。
『老人がひとり亡くなるのは図書館がひとつ消えるのと同じ』という。
その図書館に収められた本はどれも、その人が自分の目で見、耳で聞き、歩いてきた景色なのだと思う。

私は母の言葉を、まっすぐに、心を真っ白にして、受けとめたことがあったろうか。
「いらない」と置いてきてしまったものが悔やまれる。

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# by kotoko_s | 2014-01-06 23:55 | ある日 | Comments(0)

手の仕事

今日は「小寒」―寒の入り。朝6時の気温はマイナス2度だった。昨年の記録を見たら、もっと低かった。そういえば昨冬は寒い寒いと言いながら、なかなか来ない春を待ちわびた。

先日来、迷っていた「ボロのボロ隠し」のことについて。
本を参考に基本の手順を踏んで、しかし本に出ている見本どおりではなく、自分のオリジナルを作ることにした。
久々に「手仕事ノート」を開く。いつ、なにを、どのようにしてと、こと細かに記す。記録することが好きだし、書いておくと安心する。
いくつかのピースをつなげてひとかたまりのピースにし、それをいくつも作って大きなものへと仕上げていく。
今日は型紙作りと布を裁つところまで。しばらく床にうつむいたまま作業していたので腰が痛くなり、疲れて途中でやめた。
以前は、どんなに疲れても、決めたところまでなんとしてもやり遂げないと気がすまなかった。それができる体力があったのだ。今は身体が疲れると、もうそれ以上続けることができない。疲労とともに気力も萎えてくる。こういう感覚が年齢と共にますます強くなってくるのだろうか。

暖かな部屋から一歩出れば、思わず肩をすくめるほど寒さが堪える。けれど今日はきれいな青空が広がって、障子の向こうが明るかった。冬に光を感じる、なんてありがたいことでしょう。
布仕事は予定の半分しかできなかったが、今日のところはこれで充分。仕上がるには来年の冬までかかるかもしれないが、それもいい、と思えるようになった。
手を動かしていれば、いつかきっと、なにかが生まれる。疲れたら休めばいいし。急ぐことはないのだし。
わずかだが、目の前に今日の手の仕事が生まれて嬉しい。
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# by kotoko_s | 2014-01-05 23:42 | 作る | Comments(0)

基本

久しぶりにひとりで過した一日。
午前中はパソコンに張り付いて終わった。ネットに長時間かかわったあとは必ず疲労感をおぼえる。このことについては、ちゃんと考えようと思っている。しなくてもいいこと、しないほうがいいことについて。
午後は予定どおり、手仕事の準備を始めた。火の気のない部屋であれこれ出したり探したりするのが億劫で、毎年、始めるまでぐずぐずしてしまう。いったん始まると、仕上がるまで一気に集中していくのだが。
一昨年つくった、古い布をつないだ「ボロのボロ隠し」を今冬も縫おうと思う。
前回はまったくの自己流だったが、今度は本を買った。必要な道具もそろえた。

なのに。基本どおりに作るのは、やっぱり気がすすまないのだ。
仕上がりのイメージが頭の中にはっきりあるのに、本に出ている通りのものから始めるのがなんともまだるっこしくて仕方ない。いきなり作りたいものを作りたい。

だからいつまでたっても技術が上達しないし、これは、と自信をもって出せる作品にならないのだということはわかっている。だから本を買ったのではなかったか。
基本を飛ばしていきなりオリジナルをやってしまう。手仕事に関して、私はずっとそうだった。不器用な手と、自由に広がってゆくイメージの世界とのアンバランス。イメージのほうが楽しいので、そちらを優先して手先の修行は怠けてきた。
さて。どうしよう。本に出ている基本どおりに、まずは作ってみる。それとも、本を参考にしながら、すぐにオリジナルを作り始める。
今のところ、まだ後者に気持が惹かれている。

ところで、「基本のき」という言い方をいつ頃から聞くようになっただろう。
私も何気なく使ってしまうことがあるけれど、あれは、本来は「いろはのい」ではないかしら。
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# by kotoko_s | 2014-01-04 22:38 | 作る | Comments(0)

青空

朝はこの冬一番の冷え込み。こういう日は晴れる。
洗濯をする。冬物はかさばるので2回。窓の外に干した。
パソコンでいろいろとやりたいことがあったが、障子の向こうが明るくなってきたので外に出た。冬の光はつかのまなので、急いでつかまえなくては。
出てみると、まぶしいのに光が弱い。カメラを向けるとよくわかる。撮りたい風景がいくつもあるが、見たままが写らない。
車庫の前は長靴3分の2ほどの積雪。下は凍ってガチガチなので、今のうちに片付けておく。20分ほどやり、汗びっしょり。マフラーをはずし腰に巻いて、いつものコースを散歩する。
厚い、何層にも重なったような雲が次第にほどけ、青空が見えてきた。この時期の空は、晴れると透明な青になる。
山裾に広がる真っ白な平ら。雪の重みでゆらりとしなった杉の大木。日差しにゆるんで、あちこちで小さな雪崩が起きている。
ゆっくり歩きながら、時々写真を撮る。なにかわからない動物の足跡。雪の山は生きものの気配がする。

この場所を歩くのは冬だけだ。
歩きながら風景を眺めていると気持が落ち着いてくる。誰とも行き会わない。

瞑想をするとき、頭に浮かぶことや聞こえてくる周囲の音などは、そのまま受けとめながら流していくことを教えられた。
透きとおった青空の下、真っ白な自然の中をひとり歩くことは瞑想に似ている。
清々しい、あたたかなものがおなかの底に置かれたような。
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# by kotoko_s | 2014-01-03 23:46 | ある日 | Comments(0)

初売り

毎年、正月2日は家族揃って親戚宅へ行く。
昨夜からの雪が今朝も降りしきっていたが、予報を見て大丈夫だと夫がまったく平気な顔だったので安心する。彼が「やめたほうがいい」と言う時はほんとうにやめたほうがいい時だ。
いつものように高齢の人を親戚宅において、夫と二人で街に出る。
いつものショッピングモールの駐車場で別れ、それぞれの時間を過ごすのもいつものこと。ぶらぶらして、本屋で待ち合わせして、親戚宅へのお土産にケーキを買って、出る。
大型スポーツ店に行く。冬物が早くも半額になっていたので、夫のダウンジャケット、パーカ、私のフリースを買う。
なぜか最近、私はピンクに目覚めてしまい、やたらとピンクに目がいく。嫌いな色というのはないけれど、身につけるとなるとたいてい、白・紺・グレー・茶の無地がほとんどで、差し色に赤を使うことはあってもピンクはまず、選ばない色だった。不思議な変化だ。昨年の夏、着ていたピンクのポロシャツを人にほめられたからか。
「絶対」ということはぜったいにないんだなあとあらためて思う。似合うと言われると好きになったりもする。なんでも決めつけたり思い込んだりしないで、自分は(ひとは)変わるものだと思っていよう。
しかし、気に入ったピンクはサイズがなく、迷った末、ベージュにした。暖かみのあるベージュ。ジッパーがきれいな紫色なのがいい。それが見えないのがさらにいい。ありがとう。たいせつに着ます。

午後から空が明るんで、雪もちらちらになった。ありがたいと心から思う。この感覚は雪国で暮らしてみなければ実感できなかった。
帰ると、隣りの家から我が家までは一日分の雪で長靴の半分が埋もれる程度。私が先に道をつけ、後ろを老人がゆっくり歩いてきた。

テレビでは東京の百貨店の初売り風景をやっていた。開店前日から並び、人をなぎ倒して奪い取る福袋。経済は上向いているらしい。
一方、東北の仮設商店街でのひっそりとした正月風景。
でも、あの大都会にも、餓死した若い人や、人知れず死んでいた老人がいる。

今日は「初売り」だったので、文庫本を1冊買った。

パンツの面目ふんどしの沽券 (ちくま文庫)

米原 万里 / 筑摩書房



米原万里さんの本は数冊しか読んだことがないが、好きなひとだ。

昨年はほとんど本を読まなかった。今年は読みたい。
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# by kotoko_s | 2014-01-02 23:29 | ある日 | Comments(0)

 あれこれ


by haru
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