自分のために


c0323384_13554291.jpg


先日、胆のう摘出手術のために入院した。
胆のう摘出というとなにやら恐ろしげだが
友人にもいるし、何より家族の半数はやっているので
私にとってはさほど特別感がない。手術も腹腔鏡だし。
胆石はあっても症状がなければ経過観察でいいが
私は何度か症状が出ていたので、胆のうごと取ることになった。
昔は石だけ機械で砕いたり薬で溶かしたり、といったこともあったようだが
再発の恐れもあるので最近は胆のうごと取っちゃうのが主流らしい。

腹腔鏡手術は20年近く前に一度体験している。
退院のとき、穿いてきたジーパンのボタンが留められなかったので
(おなかがふくれているし、おへその傷が痛い)
今回はワンピースを用意した。
スリッパは危険なのでかかとのある靴にしてください、というので
旅行用のきれいなブルーの室内履きにしたらこれが軽くて便利だった。
使い捨てにして惜しくない安さだったし。
と、入院に向けての買物もなんとなくわくわくする。
不謹慎かもしれないが、このところ疲れもたまっていたので
いい骨休めになるなあとちょっと楽しみにしていたほどだ。

当初、術後2日ぐらいで退院も可能と聞いて、あわてて
「先生、できることなら1週間は入院させてください」とお願いした。
「帰ったらどうしても動かなくちゃならないので」
女性は皆さん、そうなんですよね、と優しい先生は笑って
ベッドが空いていたらOKですと言ってくださった。
バア、トーチャン、ごめん。

結局、回復状況もみて6日目に退院したが
あんなに休みたかったのに、退院当日は回診前に早々と着替えてしまったくらい、早く外の空気に触れたかった。
体はもちろんだが、なんとなく自分の中身が生まれ変わったような気がして、早くそれを確かめてみたいような不思議な心持ちだったのだ。


c0323384_13570969.jpg



命に関わるような病気ではなく短い期間だったが
今回の入院はとても大きなことを教えてくれた。
入院は(検査入院も含めてだが)今回で6度目である。
考えてみると、自分で思っていたほど私は頑丈ではなかったのだ。
昔からよく「無理しないで」と言われていた。
そう言われても、自分では無理をしている自覚がない。
どこまでが大丈夫で、どこからが無理になるのかがわからない。
けれども、この入院中にああそうだったんだ、と気づくことがあった。

手術の翌日の晩、微熱と頭痛で眠れなかった。
術後は熱が出ると知っていたし、頭痛は前からだし。
だから私は我慢した。
我慢して、でもどうしても我慢できなくなって、ナースコールを押した。
看護師さんに、いつからですか、と聞かれた。我慢しないでくださいね。
痛み止めの薬と冷たい枕をもらって、ようやく眠ることができた。

翌朝すっきりと目覚めて、とても気分がよかった。
体が楽だとこんなに気持ちのいいものなのか。
そういえばいつもなんとなく不調を抱えていたなあと思った。
昨夜、なぜ苦痛を我慢していたんだろう。
苦しいと訴えて助けを求めることを、なぜためらっていたのだろう。
これまでの生き方の癖のようなものがいろいろとよみがえってきて
あのときも、あのときも、と思い当たった。



c0323384_14021809.jpg



自分を後回しにして頑張らなくてはならない時というのが結構ある。
そういうときはまた力も湧いてくるもので、多少の無理もきく。
でも、それが常態化してしまったら
後回しにされた自分はどこで休むのだろう?

あんまり自分のことをちゃんと考えてこなかったんだな。
無理かどうかもわからなくなるほど、身の丈以上に頑張りすぎていたんだな。
私はいったい何が不安だったんだろう。
頑張らないとダメだと自分を駆り立てる不安は、どこからきているんだろう。

そうか、やっぱり、誰かに認められたかったんだな、というところに落ち着くまで、暇にまかせて検証していた。
辿りついたのは、「自分のために生きよう」であった。

自分のために時間を使うことにいつもうしろめたさを感じてきた。
楽しむことに罪悪感があった。
これは私の成育歴とも関係があるだろう。
だから気づいた時点でそんな思い違いは手放していいはずだが、いまだにそれがうまくできないままだったのだ。
「ひとのために」「社会のために」が幼い頃からの母の口癖だったが。
真の意味でそれができるのは、自分自身を大切にできる人である。

入院というのは非常事態で、家族には心配も世話もかけたが
おかげさまで大切なことを学んだ。
何か特別なことができたり人から認められることは嬉しいことではあるけれど
それよりも。
自分の心身をできるだけ安らかに健やかに保ち
素直に心を開いて、人に甘えさせていただくことに感謝できる。
明るい心持ちの人間になりたいものだと心から願ったことでした。


c0323384_13584297.jpg



何かのご参考までに。
実は数年前に胆石があることは知らされていた。
痛くなったら来てくださいと言われていたのをすっかり忘れ。
食べ過ぎたり油モノを摂ったあと必ずもたれや吐き気や痛みがあったのを
市販の胃薬は効かないとか、あの店の油は古いんだとか、とにかく何かのせいにして、決して自分の胆のうのことは考えなかったのである。
胆のう炎の痛みは激烈だといわれるが、それは急性の場合。
私のように痛みに鈍かったり、我慢できないほどではない場合も症状は出ているのです(主にみぞおちから右側、背中なども)。
また頭痛は首の痛みからきているのですが、最近はひどくなっていて。
これを機にパソコンに向かう時間も減らし、生活を変えようと考えています。



いろいろ反省し、心から感謝いたします。
長いものをお読みくださって、ありがとうございました。






[PR]
# by kotoko_s | 2017-07-30 14:06 | ある日 | Comments(18)

遠くへ

今年5月に帰省したときの父母の庭  
父と母がこの土地に初めての家を構えたときに
植えた石楠花(シャクナゲ)も大きくなりました。

わが家はずっと、借家を転々としてきたのです。
この家を建てたとき、母は50歳。車の免許をとりました。



c0323384_00034523.jpg



木の足元を埋めるツルハナシノブ


c0323384_00025108.jpg



ツツジもきれいだったね。
薔薇はこれからだった。
母は「こんな山の中に、薔薇なんて」と言っていましたが。
父は、どうしても薔薇を植えたかったのです。
たぶん、生家の庭が忘れられなかったのだと思う。

ブルーベリーも今頃、実をつけたかな。
鳥が食べに来てるかな。

父も母も、草花や木や、野鳥が大好き。
私もその好みを受け継ぎました。
子どもたちの中で「おまえさんだけだったなあ」と言われる。
私の誇りです。



c0323384_00023717.jpg



遠方にふたりで暮らす両親がいよいよ
老いの道を駆け足で進んでいます。
私たち子どもは。
よかれと思ってしたことを叱られたり、泣かれたり。
たまに笑顔をもらったりしながら
毎日、電話やメールで情報交換する。
格別仲がよかったわけでもないきょうだいが、このごろは
父と母のことばかり話すようになりました。

飛んでいけるものは飛んでいく。
行けないものは、こうして。
日に何度もかかってくる母の電話を受けられる幸せを感じています。


お父さん、お母さん。
おかげさまで私たちは幸せです。
なんにもできない・・・・・・けれど。
こうして今、このときを
かけがえのない時、と大切にできることを
教えてくださってありがとう。





[PR]
# by kotoko_s | 2017-07-15 00:04 | ある日 | Comments(12)

桑の思い出

c0323384_23543252.jpg


桑の実が黒く熟す季節になると
こんなところに桑の木があったのかと、初めてその存在を知る。
桑の葉を見ると思い出すことがある。
小学校1年のとき、同じ組の女の子の家に、時々遊びに行った。
特別に仲がいいというわけではなかったが
その子は私に優しくしてくれた。

引っ越してきたとき、近所を歩いていたらいきなり石が飛んできた。
振り向くと草むらの中に男の子が立っていて、「ばーか」と言った。
私は都会からやってきた異邦人で、見知らぬ子はそういう洗礼を受けるものだと知った。
学校にも馴染めなかった。
山の中を歩いていく長い長い帰り道には
きまって洟垂れ小僧が待ち伏せしていてうんざりした。

同じ組の女の子は(名前も忘れてしまったが)優しかった。
無口で、あんまり笑うこともなかったが。
いつものように男の子たちにかまわれたあとの私を
その日もそっと待っていて、一緒に帰ってくれた。
その子の家は大きな農家だった。

「おかいこさんがいるから」と言った、「だから入れないの」。
家の門をくぐったところの敷居の前に並んで座った。
今は家中、お蚕さんなの。
だから、人は狭いところでそうっとしているのだと言った。
ちょっとだけ、見る?と言われたが、家には入らなかった。
そこらじゅうから、「さわさわさわさわ」と
静かな雨の降るような音が聞こえた。
蚕が桑の葉を食べているのだと、教えてくれた。

しばらくすると、奥からその子のお母さんが
おむすびを持ってきてくれた。
大きな、まっ白なおむすび。
何か入っているかと思いながら食べたが、何も入っていなかった。
私は、何も入っていない塩むすびを、そのとき初めて食べた。

母の握ってくれるおむすびには梅漬けが入っていた。
正確にいうと、カリカリの梅漬けを細かく刻んで、ごはんに混ぜて握ったものだ。
桜の花びらが散ったようにきれいなその小さなおむすびを
「桜のおむすび」と私は呼んでいた。

大人になって家族におむすびを握るたびに
あのまっ白な、何も入っていない大きな塩むすびと
母の小さな桜のおむすびを思い出す。
どちらも、大事なわたしの思い出。


c0323384_22462841.jpg


歩いて帰る道すがら、まっ黒に熟れた桑の実を頬張った。

幸せな、信州の思い出です。




[PR]
# by kotoko_s | 2017-06-21 23:49 | ある日 | Comments(10)

ダメなんですか?

c0323384_23115543.jpg


先日、ドラッグストアの化粧品の棚をなんとなく眺めていたら
美容部員らしき女性がすっと近づいてきた。
紫外線対策のあれこれをお勧めしますよ、というわけだが
その彼女の顔がぎょっとするほどまっ白なのだ。
今日は急いでいるのでまた、とその場を離れようとすると
能面のような顔で薄く笑って
「手の甲のシミが目立ちますが」

たしかに、私の手の甲にはぽつぽつと薄茶色のシミが浮き出ている。
六十近くもなればそんなの当たり前じゃないか。
鉛筆みたいにやせっぽちの彼女はまだ20代後半か。
人生の先輩に対してもうちょっと優しい言い方ができないものかねえ。
いや、彼女のように若いころからまっ白に塗っていればよかったのかねえ。
なんだか「あなたはそれじゃダメ」と言われたようでしょんぼりして帰ってきた。

数年前、ジーパン屋で選ぶのに迷って
そばにいた若い女性の店員におそるおそる悩みを打ち明けた。
なぜか若い子のいる店では卑屈な気持ちになっていけない。
太腿が張っているんですが、合うのないでしょうか。
「それはウチのじゃちょっと厳しいですね」

たしかに、キビシイかもしれない。
だが、もうちょっと言い方ってものがあるような気がするよ。
ここでもまた「あなたはそれじゃダメ」と言われたようでがっかりした。

若い子の店に入るからいけないのかもしれない。
しかし、店自体が選ぶほどないのである。
お世辞を言えとは言わないが、もうちょっと気持ちよく会話できたらいいのに。

昨日、もう怒りません、と思ったが。
別に怒っているわけではないが。
なんとなくもやっとしたので書いておきます。





[PR]
# by kotoko_s | 2017-06-17 08:24 | ある日 | Comments(16)

たいしたことではない

c0323384_15464847.jpg


先日、インターネットで古本を何冊か注文したら、一冊が汚れていた。
「表紙に少しシミあり」という説明も承知の上だったが
これを「少し」といいますか、と言いたくなるような濃いシミ。
イヤな気持ちになりすぐさまきれいな包み紙でカバーしてしまった。
中を開くと数ページ目に、ルビが書き込まれている。しかも赤いボールペンで。
そういえば、書き込みナシ、とは書いてなかったなあと後悔したが仕方ない。
せめて鉛筆にしてほしかったが、それよりも吃驚したのはそのルビが間違っていたことだ。

「詠って」というところに「よむ」とふってある。
「って」はどうするの。
「うた」だよ、きっと、この場合は。
「よむって」と読んだのかなあ、まさかなあ。
辞書で調べて「よむ」と読むんだね、と知ってメモしたのか。
ぶっきらぼうな赤いボールペンのひらがなが
この本の最初の読者を想像させてちょっと可笑しくなった。

私だってたまたまこの字を知っていたというだけで
ほかの何万という言葉を知らずに平気な顔して生きているのだ。
表に出ない分、恥をかく機会がないというだけである。
あ、ここでやっているかもしれないですね。



午後の朴の木。田中一村の絵を思い出した。
c0323384_15514997.jpg



雑誌の編集をしている友人が、取材した人物の名前を間違えたまま載せてしまった。
人名というのは校正でも特に緊張する部分ではなかろうか。
それでもこういうことはあるのだ。
友人は真っ青になってすぐさま電話をかけ平謝りに謝った。
すると相手はこともなげに言ったそうだ。
「私はそういうことはまるで気にならないんですよ。だからあなたも気にしないで大丈夫」

申し訳なくて恥ずかしくてありがたくて、と友人は涙ぐんで言った。
似たようなことを経験しているから、その気持ちはよくわかる。
それなのに、自分の至らなさを忘れて私は結構、他人に厳しい。
相手の勘違いをいつまでも覚えていたり。いやらしいよなあ、と恥ずかしくなった。
たいていの間違いはたいしたことではないのだ。

名前を間違えられても「まるで気にならないんですよ」とさらりと言って
恐縮している相手を救う。
そんなおおらかな心持ちに私もなりたい、と思ったことでした。




[PR]
# by kotoko_s | 2017-06-14 16:29 | ある日 | Comments(12)

 あれこれ


by haru
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30