カテゴリ:ある日( 101 )

体を使う

この時期は天気予報を見ながら畑優先である。
今年も秋仕舞いの一大イベント、大根の収穫をした。
お百姓の仕事は中腰じゃないと務まらない。
ああ私には到底務まらない。
「腰痛ベルト」をぎっちり装着して、いざ。


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トーチャンが抜いて、私が葉を切り落とす。
この葉っぱ、昔は干して刻み、少ないコメに混ぜて「カテマンマ」にした。
今はほとんどの葉っぱを畑に返す。


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畑は家のすぐ上にあり、一輪車に積んでトーチャンがおろしてくる。
庭先の「ミジャ(水場)」で私が洗う。
今はいいゴム手袋があるから全然冷たくない。

ちょっと軽いのは、切ってみるとたいてい真ん中に穴が空いている。
いいところだけ切って、これは漬物用。
よいものが100本あった。来年の春まで食べつなぐ。


嫁いできたころは、山の畑でつくっていた。
車に積んで往復したが。
その昔は義母と義父が背負って家まで歩いて運んでいた。



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白菜は、朝露の乾いた午後に収穫する。112個。年々少なくなっている。


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今日はガラス窓に「雪囲い」(冬囲いとも)をする。
降り積もった雪と屋根から落ちる雪で、一階部分はほぼ埋まってしまうから
雪の重みでガラスが割れないようにカバーする。
今は透明なプラスチック板だが、昔は「オオダリ」といって
丈高いカヤを編んで覆いにした。
そのためのカヤ刈り場が山にあって
刈ったカヤに自分の体が埋まるほど背負って何度も往復した。


            *


えーと。実は腰痛の話を書こうと思っていたのですが。
昔のひとのまことに体を痛めつける過酷な労働を思い浮べていたら
なんだかしゅんとしてしまったので、今回はここまでにいたします。

91歳のバア。よく働いてきたね。
すごいね。





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by kotoko_s | 2017-11-13 04:21 | ある日 | Comments(18)

根っこ

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頬がひやっとして寒い朝。
こんな日はきれいに晴れる。
バアの指令のもと、トーチャンと来年のレタスの苗を植えた。
ゴム長の足の裏が冷たい。
2列で88本。こんなにどうするんでしょう。


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終って、バアはとっておいた苗を親戚に届けに行った。
トーチャンに花壇を耕してもらい、私はチューリップの球根を植える。
今年は半分も咲かなかった。
モグラが掘ったトンネルをネズミが通りながら球根を食べたらしい。
来年はネズミが球根を嫌いになってくれますように。

落ち葉を掃いたり、古い鉢植を整理したりしていると
だんだん背中が暖かくなってくる。
秋の日差しのなんてやわらかなことだろう。


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彼女がこの世にいるかぎり(もう九十歳に近いはずだ)、私はまだヨーロッパに自分の根(ルーツ)をもっている気がする。根、それも主根を。手元の辞書によれば、主根とは「植物の主要な根。通常、側根よりも頑強で、茎からまっすぐ下に伸びる」とある。この根は幼年期の根であると同時に、幼児期の言語の根であり、幼児期に暮らした土地の根でもあると思う。そして私にとっての根はベルギーであり、ポーリーンなのだ。(『70歳の日記』メイ・サートン、みすず書房、2016)


ポーリーンとは、「もう90歳近いはず」と書かれている大切な友人のこと。
メイ・サートンはアメリカ人だが、ベルギーに生まれ、4歳のときに両親とアメリカへ亡命したのだ。


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どんなに長くこの地で暮らしても、私の根(ルーツ)は別にある。
普段そんなことを意識して生活しているわけではないが
時折、「ここではない、どこか」へ行きたくなり
「ここにはない、なにか」が欲しくなる。
それは多分、いいも悪いもない、それが私というものなのだろうから。

でも、もしここに来ることがなかったとしたら。
ずっと住み慣れた都会にいたとしたら。
私の中に太く頑丈な根っこはついに育たず
網の目のように混乱した細い根ばかりで
いつ倒れてもおかしくはなかったろう。

私の遠くにあるはずの「主根」は。
ここで育てられてきたんだろうと思う。



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by kotoko_s | 2017-11-06 11:13 | ある日 | Comments(13)

山へ

先日たずねた山。

ここは好きな場所のひとつで、以前はよく来たものですが。
このごろは、休みともなると街へ出かけてしまって。
久しぶり。

やっぱり、いいなあ。


山、といっても「登山」するわけではありません。
このあたりで「やま」といったら「畑」とか「里山」を指す。




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ホオノキの葉は茶色くなった。
枯れたものから枝を離れ
風に乗ってゆっくりと舞い降りていく。

空を仰ぐと眩しい。




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とてもきれいなススキを見つけました。
いいことを思いつきました。
まだ秘密です。




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by kotoko_s | 2017-10-29 22:55 | ある日 | Comments(8)

いいひと(仮)

日中でも10度を切るようになって、秋をすっ飛ばして冬の気配のするこの頃。
私はこの時期からもうダメなのである。
一日中、夕方みたいな薄暗さ。
もっと光を!!

この冬こそ元気にゲラゲラ笑って過ごそうと
今年も思ってはいるのだ。
だがこの調子では今冬もあぶない。
こういう、布団をかぶってひきこもっていたい気分のときこそ
えいやっと力を振り絞って活動するべきなのだ。

まずはここに書くことで
無理にでもひきこもりから脱却しようという作戦。

この記事のタイトル「いいひと」について
のちほどちゃんと書こうと思います。

季節の写真も撮るぞ。

ではまたあとで。







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by kotoko_s | 2017-10-21 08:29 | ある日

自分のために


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先日、胆のう摘出手術のために入院した。
胆のう摘出というとなにやら恐ろしげだが
友人にもいるし、何より家族の半数はやっているので
私にとってはさほど特別感がない。手術も腹腔鏡だし。
胆石はあっても症状がなければ経過観察でいいが
私は何度か症状が出ていたので、胆のうごと取ることになった。
昔は石だけ機械で砕いたり薬で溶かしたり、といったこともあったようだが
再発の恐れもあるので最近は胆のうごと取っちゃうのが主流らしい。

腹腔鏡手術は20年近く前に一度体験している。
退院のとき、穿いてきたジーパンのボタンが留められなかったので
(おなかがふくれているし、おへその傷が痛い)
今回はワンピースを用意した。
スリッパは危険なのでかかとのある靴にしてください、というので
旅行用のきれいなブルーの室内履きにしたらこれが軽くて便利だった。
使い捨てにして惜しくない安さだったし。
と、入院に向けての買物もなんとなくわくわくする。
不謹慎かもしれないが、このところ疲れもたまっていたので
いい骨休めになるなあとちょっと楽しみにしていたほどだ。

当初、術後2日ぐらいで退院も可能と聞いて、あわてて
「先生、できることなら1週間は入院させてください」とお願いした。
「帰ったらどうしても動かなくちゃならないので」
女性は皆さん、そうなんですよね、と優しい先生は笑って
ベッドが空いていたらOKですと言ってくださった。
バア、トーチャン、ごめん。

結局、回復状況もみて6日目に退院したが
あんなに休みたかったのに、退院当日は回診前に早々と着替えてしまったくらい、早く外の空気に触れたかった。
体はもちろんだが、なんとなく自分の中身が生まれ変わったような気がして、早くそれを確かめてみたいような不思議な心持ちだったのだ。


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命に関わるような病気ではなく短い期間だったが
今回の入院はとても大きなことを教えてくれた。
入院は(検査入院も含めてだが)今回で6度目である。
考えてみると、自分で思っていたほど私は頑丈ではなかったのだ。
昔からよく「無理しないで」と言われていた。
そう言われても、自分では無理をしている自覚がない。
どこまでが大丈夫で、どこからが無理になるのかがわからない。
けれども、この入院中にああそうだったんだ、と気づくことがあった。

手術の翌日の晩、微熱と頭痛で眠れなかった。
術後は熱が出ると知っていたし、頭痛は前からだし。
だから私は我慢した。
我慢して、でもどうしても我慢できなくなって、ナースコールを押した。
看護師さんに、いつからですか、と聞かれた。我慢しないでくださいね。
痛み止めの薬と冷たい枕をもらって、ようやく眠ることができた。

翌朝すっきりと目覚めて、とても気分がよかった。
体が楽だとこんなに気持ちのいいものなのか。
そういえばいつもなんとなく不調を抱えていたなあと思った。
昨夜、なぜ苦痛を我慢していたんだろう。
苦しいと訴えて助けを求めることを、なぜためらっていたのだろう。
これまでの生き方の癖のようなものがいろいろとよみがえってきて
あのときも、あのときも、と思い当たった。



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自分を後回しにして頑張らなくてはならない時というのが結構ある。
そういうときはまた力も湧いてくるもので、多少の無理もきく。
でも、それが常態化してしまったら
後回しにされた自分はどこで休むのだろう?

あんまり自分のことをちゃんと考えてこなかったんだな。
無理かどうかもわからなくなるほど、身の丈以上に頑張りすぎていたんだな。
私はいったい何が不安だったんだろう。
頑張らないとダメだと自分を駆り立てる不安は、どこからきているんだろう。

そうか、やっぱり、誰かに認められたかったんだな、というところに落ち着くまで、暇にまかせて検証していた。
辿りついたのは、「自分のために生きよう」であった。

自分のために時間を使うことにいつもうしろめたさを感じてきた。
楽しむことに罪悪感があった。
これは私の成育歴とも関係があるだろう。
だから気づいた時点でそんな思い違いは手放していいはずだが、いまだにそれがうまくできないままだったのだ。
「ひとのために」「社会のために」が幼い頃からの母の口癖だったが。
真の意味でそれができるのは、自分自身を大切にできる人である。

入院というのは非常事態で、家族には心配も世話もかけたが
おかげさまで大切なことを学んだ。
何か特別なことができたり人から認められることは嬉しいことではあるけれど
それよりも。
自分の心身をできるだけ安らかに健やかに保ち
素直に心を開いて、人に甘えさせていただくことに感謝できる。
明るい心持ちの人間になりたいものだと心から願ったことでした。


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何かのご参考までに。
実は数年前に胆石があることは知らされていた。
痛くなったら来てくださいと言われていたのをすっかり忘れ。
食べ過ぎたり油モノを摂ったあと必ずもたれや吐き気や痛みがあったのを
市販の胃薬は効かないとか、あの店の油は古いんだとか、とにかく何かのせいにして、決して自分の胆のうのことは考えなかったのである。
胆のう炎の痛みは激烈だといわれるが、それは急性の場合。
私のように痛みに鈍かったり、我慢できないほどではない場合も症状は出ているのです(主にみぞおちから右側、背中なども)。
また頭痛は首の痛みからきているのですが、最近はひどくなっていて。
これを機にパソコンに向かう時間も減らし、生活を変えようと考えています。



いろいろ反省し、心から感謝いたします。
長いものをお読みくださって、ありがとうございました。






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by kotoko_s | 2017-07-30 14:06 | ある日 | Comments(18)

遠くへ

今年5月に帰省したときの父母の庭  
父と母がこの土地に初めての家を構えたときに
植えた石楠花(シャクナゲ)も大きくなりました。

わが家はずっと、借家を転々としてきたのです。
この家を建てたとき、母は50歳。車の免許をとりました。



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木の足元を埋めるツルハナシノブ


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ツツジもきれいだったね。
薔薇はこれからだった。
母は「こんな山の中に、薔薇なんて」と言っていましたが。
父は、どうしても薔薇を植えたかったのです。
たぶん、生家の庭が忘れられなかったのだと思う。

ブルーベリーも今頃、実をつけたかな。
鳥が食べに来てるかな。

父も母も、草花や木や、野鳥が大好き。
私もその好みを受け継ぎました。
子どもたちの中で「おまえさんだけだったなあ」と言われる。
私の誇りです。



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遠方にふたりで暮らす両親がいよいよ
老いの道を駆け足で進んでいます。
私たち子どもは。
よかれと思ってしたことを叱られたり、泣かれたり。
たまに笑顔をもらったりしながら
毎日、電話やメールで情報交換する。
格別仲がよかったわけでもないきょうだいが、このごろは
父と母のことばかり話すようになりました。

飛んでいけるものは飛んでいく。
行けないものは、こうして。
日に何度もかかってくる母の電話を受けられる幸せを感じています。


お父さん、お母さん。
おかげさまで私たちは幸せです。
なんにもできない・・・・・・けれど。
こうして今、このときを
かけがえのない時、と大切にできることを
教えてくださってありがとう。





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by kotoko_s | 2017-07-15 00:04 | ある日 | Comments(12)

桑の思い出

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桑の実が黒く熟す季節になると
こんなところに桑の木があったのかと、初めてその存在を知る。
桑の葉を見ると思い出すことがある。
小学校1年のとき、同じ組の女の子の家に、時々遊びに行った。
特別に仲がいいというわけではなかったが
その子は私に優しくしてくれた。

引っ越してきたとき、近所を歩いていたらいきなり石が飛んできた。
振り向くと草むらの中に男の子が立っていて、「ばーか」と言った。
私は都会からやってきた異邦人で、見知らぬ子はそういう洗礼を受けるものだと知った。
学校にも馴染めなかった。
山の中を歩いていく長い長い帰り道には
きまって洟垂れ小僧が待ち伏せしていてうんざりした。

同じ組の女の子は(名前も忘れてしまったが)優しかった。
無口で、あんまり笑うこともなかったが。
いつものように男の子たちにかまわれたあとの私を
その日もそっと待っていて、一緒に帰ってくれた。
その子の家は大きな農家だった。

「おかいこさんがいるから」と言った、「だから入れないの」。
家の門をくぐったところの敷居の前に並んで座った。
今は家中、お蚕さんなの。
だから、人は狭いところでそうっとしているのだと言った。
ちょっとだけ、見る?と言われたが、家には入らなかった。
そこらじゅうから、「さわさわさわさわ」と
静かな雨の降るような音が聞こえた。
蚕が桑の葉を食べているのだと、教えてくれた。

しばらくすると、奥からその子のお母さんが
おむすびを持ってきてくれた。
大きな、まっ白なおむすび。
何か入っているかと思いながら食べたが、何も入っていなかった。
私は、何も入っていない塩むすびを、そのとき初めて食べた。

母の握ってくれるおむすびには梅漬けが入っていた。
正確にいうと、カリカリの梅漬けを細かく刻んで、ごはんに混ぜて握ったものだ。
桜の花びらが散ったようにきれいなその小さなおむすびを
「桜のおむすび」と私は呼んでいた。

大人になって家族におむすびを握るたびに
あのまっ白な、何も入っていない大きな塩むすびと
母の小さな桜のおむすびを思い出す。
どちらも、大事なわたしの思い出。


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歩いて帰る道すがら、まっ黒に熟れた桑の実を頬張った。

幸せな、信州の思い出です。




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by kotoko_s | 2017-06-21 23:49 | ある日 | Comments(10)

ダメなんですか?

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先日、ドラッグストアの化粧品の棚をなんとなく眺めていたら
美容部員らしき女性がすっと近づいてきた。
紫外線対策のあれこれをお勧めしますよ、というわけだが
その彼女の顔がぎょっとするほどまっ白なのだ。
今日は急いでいるのでまた、とその場を離れようとすると
能面のような顔で薄く笑って
「手の甲のシミが目立ちますが」

たしかに、私の手の甲にはぽつぽつと薄茶色のシミが浮き出ている。
六十近くもなればそんなの当たり前じゃないか。
鉛筆みたいにやせっぽちの彼女はまだ20代後半か。
人生の先輩に対してもうちょっと優しい言い方ができないものかねえ。
いや、彼女のように若いころからまっ白に塗っていればよかったのかねえ。
なんだか「あなたはそれじゃダメ」と言われたようでしょんぼりして帰ってきた。

数年前、ジーパン屋で選ぶのに迷って
そばにいた若い女性の店員におそるおそる悩みを打ち明けた。
なぜか若い子のいる店では卑屈な気持ちになっていけない。
太腿が張っているんですが、合うのないでしょうか。
「それはウチのじゃちょっと厳しいですね」

たしかに、キビシイかもしれない。
だが、もうちょっと言い方ってものがあるような気がするよ。
ここでもまた「あなたはそれじゃダメ」と言われたようでがっかりした。

若い子の店に入るからいけないのかもしれない。
しかし、店自体が選ぶほどないのである。
お世辞を言えとは言わないが、もうちょっと気持ちよく会話できたらいいのに。

昨日、もう怒りません、と思ったが。
別に怒っているわけではないが。
なんとなくもやっとしたので書いておきます。





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by kotoko_s | 2017-06-17 08:24 | ある日 | Comments(16)

たいしたことではない

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先日、インターネットで古本を何冊か注文したら、一冊が汚れていた。
「表紙に少しシミあり」という説明も承知の上だったが
これを「少し」といいますか、と言いたくなるような濃いシミ。
イヤな気持ちになりすぐさまきれいな包み紙でカバーしてしまった。
中を開くと数ページ目に、ルビが書き込まれている。しかも赤いボールペンで。
そういえば、書き込みナシ、とは書いてなかったなあと後悔したが仕方ない。
せめて鉛筆にしてほしかったが、それよりも吃驚したのはそのルビが間違っていたことだ。

「詠って」というところに「よむ」とふってある。
「って」はどうするの。
「うた」だよ、きっと、この場合は。
「よむって」と読んだのかなあ、まさかなあ。
辞書で調べて「よむ」と読むんだね、と知ってメモしたのか。
ぶっきらぼうな赤いボールペンのひらがなが
この本の最初の読者を想像させてちょっと可笑しくなった。

私だってたまたまこの字を知っていたというだけで
ほかの何万という言葉を知らずに平気な顔して生きているのだ。
表に出ない分、恥をかく機会がないというだけである。
あ、ここでやっているかもしれないですね。



午後の朴の木。田中一村の絵を思い出した。
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雑誌の編集をしている友人が、取材した人物の名前を間違えたまま載せてしまった。
人名というのは校正でも特に緊張する部分ではなかろうか。
それでもこういうことはあるのだ。
友人は真っ青になってすぐさま電話をかけ平謝りに謝った。
すると相手はこともなげに言ったそうだ。
「私はそういうことはまるで気にならないんですよ。だからあなたも気にしないで大丈夫」

申し訳なくて恥ずかしくてありがたくて、と友人は涙ぐんで言った。
似たようなことを経験しているから、その気持ちはよくわかる。
それなのに、自分の至らなさを忘れて私は結構、他人に厳しい。
相手の勘違いをいつまでも覚えていたり。いやらしいよなあ、と恥ずかしくなった。
たいていの間違いはたいしたことではないのだ。

名前を間違えられても「まるで気にならないんですよ」とさらりと言って
恐縮している相手を救う。
そんなおおらかな心持ちに私もなりたい、と思ったことでした。




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by kotoko_s | 2017-06-14 16:29 | ある日 | Comments(12)

薔薇子ちゃん

今年もヤマナシの花が満開。

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5歳まで、父の家にいた。

私が生まれたとき、祖母は私の父と母に提案した。
「この子の名前ね、バラコちゃんはどうかしら」

庭の薔薇がこんなにきれいなときに生まれたから、と祖母は嬉しそうに言ったという。
薔薇子。なんだか、すごい。
私の名前は、男の子でも女の子でも、これにしよう、と両親が決めていた。
この名前を私は気に入っているが、祖母に「薔薇子ちゃん」と呼ばれてみたかったな、とちょっと思う。

仕事に忙しい両親の代わりに、私と多くの時間を一緒にいてくれたのは祖母だった。
家の裏の保育園には、毎朝、祖母が連れていってくれたのだろうか。
初めての集団生活は恐ろしかった。
すべり台の頂上にしゃがみこむとドンッと背中を押され、地面に投げ出される。
上履きを履こうとすると、ない。
園庭の下を流れている川のほとりに落ちているのが見つかった。
音楽に合わせて体操するのが恥ずかしかった。みんなが笑って見ている。
と、先生に訴えたが誰も信じてくれない。
私は毎日、持って行ったお弁当を提げて、途中でひとり家に帰るようになった。
祖母と一緒に白黒テレビで「ローハイド」を見ながらお弁当を食べた。
ラジオから坂本九ちゃんが毎日流れていて、大声で歌った。

そういうことがどのぐらい続いたのか、ある日、私は祖母に言った。
「おばあちゃん。わたし、もうほいくえんにいきたくない」
祖母は「そう。なら、行かなくていいよ」と言った。
翌日から、私は本当に保育園には行かず、一日中、祖母と庭で遊んだ。

いつだったか、そのことを母に話したことがある。
おばあちゃんにそう言われてすごく嬉しかったこと、はっきり覚えてる。
母は笑って言った。「ちょうどあの時、引っ越すことが決まっていたからね」

そうじゃないんだ。
そんなことはどっちだっていいんだ。
「もう行きたくない」と言った私に、「行かなくていいよ」と言ってくれた、そのことが。
なんだかうまくやれず困っていた小さな私を、どんなにほっとさせてくれたことだろう。

引っ越した田舎に、祖母はよく来てくれた。
手をつないで山道を歩きながら、草花や虫の名前を教えてくれた。
薔薇の木の下で一緒にしゃがんで、おしゃべりしたときと同じように。


誕生日がくると、細面で美しかった祖母の笑顔を懐かしく思い出す。
母は私には遠く感じられるほど、祖母との思い出が濃い。
だが、大人になってから気づいた。
離れて暮らすようになっても祖母と度々会えたのは
母と姑であった祖母が親しく行き来していたからだったのだと。






「ローズ」という歌がとても好きだ。
弱っているとき、そっと背中を撫で力をくれる。
なんだかうまくやれない「薔薇子ちゃん」を
信じて見守り続けてくれた、祖母を思い出す。





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by kotoko_s | 2017-05-06 09:24 | ある日 | Comments(10)

 あれこれ


by haru
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