2017年 03月 26日 ( 1 )

別れ

機(はた)を解体した。

もともと、柔らかな服地やマフラーなどを織るのに適した機だった。
なのに私はガンガンきつく打ち込む織りをして、この機にはずいぶんと無理をさせた。
結婚後まもなく購入したから、20年近くになるが。
ひとつの道具がその役目を終えるには短すぎた。

去年、久しぶりに織ったとき、うまく織れなかった。
部品を新しいものに交換すればいいか、工夫する余地があるかとも考えた。
が、(ああもうこれで最後だな)という感じがした。
これが、この機で最後の織だな。

今の家に来る前に、夫と二人で暮らした時期がある。
長い冬。雪かきのほかは、ずっと機に座っていた。
たくさんの布が生まれ、大きな夢が生まれて。
恵まれた時間だったと思う。

いつかは本物の機を、といつも思っていた。
今の機がニセモノというわけではないが、もっと大きなしっかりした機が欲しかった。
私の織りに合う、頑丈な道具が。
知らない土地で、私は早く自分の居場所を定めたかったのかもしれない。
ちょっとせっかちに買ってしまった、玩具のようなやさしげな機。
20年、いつも傍にいてくれた。

2階のその部屋にほとんど行かなくなってずいぶんたつ。
いつでも織れるように、機は部屋の真ん中に据えていた。
解体しながら、またいつか組み立てるときがくるかもしれないと漠然と思っていたが。
どうしても抜けないネジをはさんだドライバーに力を込めたら、根元から木が裂けた。
それで踏ん切りがついた。

「いい木だ。何かに使えるぞ」と夫が言う。
何かに使ってもらえたら嬉しいが、何の役にも立たなくたっていい。
私は錆びたネジひとつだけ、とっておくことにする。


自分にとって織るという行為が、どれほどのものだったかわからない。
ただ、好きだった。
からむしを織るときも。裂き織りのときも。
機に座ると手が自然に動いて、一段、また一段。
手が、気持ちを先へ先へと運んでくれた。
機に―ありがとう、いつも助けてくれて、ほんとうにありがとう。



そこにあることが当たり前だったのに、今はもう跡形もない。
とりかえしのつかないことをしてしまった、という思いがかすかに残る。
だが、これは新しいものに出会うための必然だったのだ。
また織るのだろうと思う。いつか、きっと。





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by kotoko_s | 2017-03-26 23:00 | 作る | Comments(8)

 あれこれ


by haru
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