別れ

機(はた)を解体した。

もともと、柔らかな服地やマフラーなどを織るのに適した機だった。
なのに私はガンガンきつく打ち込む織りをして、この機にはずいぶんと無理をさせた。
結婚後まもなく購入したから、20年近くになるが。
ひとつの道具がその役目を終えるには短すぎた。

去年、久しぶりに織ったとき、うまく織れなかった。
部品を新しいものに交換すればいいか、工夫する余地があるかとも考えた。
が、(ああもうこれで最後だな)という感じがした。
これが、この機で最後の織だな。

今の家に来る前に、夫と二人で暮らした時期がある。
長い冬。雪かきのほかは、ずっと機に座っていた。
たくさんの布が生まれ、大きな夢が生まれて。
恵まれた時間だったと思う。

いつかは本物の機を、といつも思っていた。
今の機がニセモノというわけではないが、もっと大きなしっかりした機が欲しかった。
私の織りに合う、頑丈な道具が。
知らない土地で、私は早く自分の居場所を定めたかったのかもしれない。
ちょっとせっかちに買ってしまった、玩具のようなやさしげな機。
20年、いつも傍にいてくれた。

2階のその部屋にほとんど行かなくなってずいぶんたつ。
いつでも織れるように、機は部屋の真ん中に据えていた。
解体しながら、またいつか組み立てるときがくるかもしれないと漠然と思っていたが。
どうしても抜けないネジをはさんだドライバーに力を込めたら、根元から木が裂けた。
それで踏ん切りがついた。

「いい木だ。何かに使えるぞ」と夫が言う。
何かに使ってもらえたら嬉しいが、何の役にも立たなくたっていい。
私は錆びたネジひとつだけ、とっておくことにする。


自分にとって織るという行為が、どれほどのものだったかわからない。
ただ、好きだった。
からむしを織るときも。裂き織りのときも。
機に座ると手が自然に動いて、一段、また一段。
手が、気持ちを先へ先へと運んでくれた。
機に―ありがとう、いつも助けてくれて、ほんとうにありがとう。



そこにあることが当たり前だったのに、今はもう跡形もない。
とりかえしのつかないことをしてしまった、という思いがかすかに残る。
だが、これは新しいものに出会うための必然だったのだ。
また織るのだろうと思う。いつか、きっと。





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Commented by fusk-en25 at 2017-03-27 01:09
機は道具。
そして残ったのはハルさんの「手」。。。
Commented by kotoko_s at 2017-03-27 08:19
☆fuskさん
よい道具でした。
わたしの手をつくってくれたんだなと。
Commented by saheizi-inokori at 2017-03-27 10:00
けさの雨のようにほとほとと心に沁みいって涙が出てくるような文章です。
愛する物と別れるのは無性に悲しいことがあります。
それが何も言わなかったからかな。
Commented by kotoko_s at 2017-03-27 11:01
☆佐平次さん
こちらはやわらかな春の雪が朝からずっと。
物言わぬ道具なのに、なんでしょうか、この気持ちは・・・
黙ってただそこにいてくれたからでしょうか。
Commented by noburinng at 2017-03-27 12:49
こんにちは。
新しいものに出会うための必然って、素敵な言葉だと思います。
いつもそうやって、前を向いて進んでいきたいと、私も思っています。
熟慮の末の別れの後は、新しい明日を迎えに行けると信じて。
Commented by kotoko_s at 2017-03-27 15:47
☆noburinngさん
こんにちは。
なんでも感覚で決めてしまうので熟慮の末と言えますかどうか^^
でも、友人のようだったこの機が、何か滞って踏み出せずにいる私の背中を押してくれたのだと思います。
Commented by maco at 2017-04-01 03:11 x
こちらの記事が心に沁みて、久しぶりにコメントを書かせていただきます。
こちらに移住する旅立ちの前に処分したものたちのことを思い出しました。
新しいものを手に入れる時は、それと同時に古い何かを捨てる時なのかもしれないですね。
それはものだけじゃなく、人との縁なども。
上の記事の、なくしてみて初めて知るというのもそういう事なんでしょうね。
Commented by kotoko_s at 2017-04-01 21:59
☆macoさん
お久しぶりです、おいでくださってありがとうございます。
同じ国内で引っ越すのとは違って、手放さなくてはならないものがたくさんあったでしょうね。
そうですね、ものだけではなくて、人との関係も。

若い頃より、何かと(誰かと)別れることの重みがずっしりとこたえるようになってきました。
寂しさはもちろんありながら、感謝と共に懐かしく思いだせるような別れをしていきたいとこのごろ思います。
そして、いくつになっても、自分らしい選択をしていけたらと願っています。
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by kotoko_s | 2017-03-26 23:00 | 作る | Comments(8)

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