春の色とメイ・サートンの言葉

凍った雪の下に春が来ていた。


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雪解け水、ふきのとう、土の色。




メイ・サートンの『70歳の日記』(みすず書房、2016)から。

「ベッドの中で除雪車がいつ来るかと耳を澄ましていたら、パニック発作に襲われてしまった。自分のばかさかげんに呆れてしまう。涙を流しながら起き上がり、もう一度タマスをさっきのところに出してやろうとした。タマスのことも心配、そして餌やり器に近づくこともできない鳥たちのことも心配だった。そのうえ、除雪車は来るには来たけれど小道の雪はどけてくれなかったことも、パニックをさらに悪化させた。こんなに動揺する自分がばかに思える。歳のせいだろうか。なんといってもここはニューイングランド。この地で暮らすには、がまん強く頑強でなければならないのだ。」

「昨日は一日中、気が滅入っていたわけではない。タマスの散歩をしていたら、頭の上のほうでネコヤナギが輝いている。高い枝から銀白色の花穂が出ているのが見えた。それからテラスでも、去年、硬い氷を破って出てきたスノードロップが、まだ雪が残っている隅のほうから顔を出している。魔法としかいいようがない。」


雪深く冷たい風の吹きつける海辺の家で、晩年の作家はひとり暮らしている。
タマスというのは飼っている犬のことだ。
誕生日が同じということもあって、メイ・サートンは私にとって特別な作家のひとりである。
大雪に難儀する様子、鮮やかな春の訪れに胸躍らせる日など、
海辺ではないがやはり厳しい自然の中にいるものとしては思わず頷いてしまう。

メイ・サートンは1912年ベルギーで生まれる。
4歳のとき、第一次世界大戦の戦火を逃れ両親と共にアメリカに亡命した。
その後はニューイングランドで暮らし、1995年に亡くなった。
詩人であり、作家であるが、この本のほかにも何冊か日記を書いた。
日々の小さな出来事や思索を記録したこの人のシンプルな日記が、私はとても好きだ。
繊細で飾り気のない人柄、嘆きや怒りも率直に表現する人間くささ。
魂の気高さ、自然や人への温かなまなざしがどの本にも溢れている。
「独り居中毒患者」と自らを呼ぶ作家は、だからひきこもっていたかというと、そうではない。
友人や隣人を大切にし、見知らぬ人々の求めにも誠実に応じようとしてしばしば疲労する。
独りで居ることを愛し、内省のときを何より大事にした。
お会いしたかったなあと思う。できるはずもなかったけれど。


あとがきから。
「私にとって書くことは、自分に何が起きているかを理解する手立てであり、困難な問題を考え抜くための手段なのだと思っている。これまでに書いた本はすべて、自分が答えをみつけたいと思っている問題から生まれたものばかりだ。混沌(カオス)のなかから秩序を見出すことが、繰り返し必要になるのかもしれない。芸術は秩序―でもそれは、生のカオスのなかから生み出されるものだから」

                          *

今日は雨。低い灰色の空は今にも雪に変わりそうだ。
こんな日に暖かな部屋にいられることを有り難いと思う。
せっかく顔を出したふきのとうは、また重い雪の下に隠れてしまうだろう。
雪や暗い空、様々なことに心が押しつぶされそうなときも。
見えないだけで、春はそこにきっと待っているのだ。


        
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Commented by saheizi-inokori at 2017-02-23 20:15
メイ・サートン、読んでみます。
Commented by saheizi-inokori at 2017-02-23 20:18
今図書館に予約したら、驚きました。
幾島幸子さんが翻訳、ブログ繋がりで会食もした方です。
Commented by kotoko_s at 2017-02-23 21:09
☆佐平次さん
翻訳者をご存知でしたか。それは偶然ですね!
幾島さんのメイ・サートンの翻訳は、この本のほかにも1冊あります。
久しぶりの日本での出版で嬉しい限りでした。
Commented by fusk-en25 at 2017-02-23 21:51
私もカオスの中から物を見つけるのが好きです。
他者がきちんと片付けた評論を読むのはあまり好きでない。。
自分で考えたいと。

独居中毒もちょっとだけ同じかも。。笑。
それが何か物を作り出すことに繋がればいいのだけれど。
そこがまた怠け者で。。。そうはならないんだなあ。。。
Commented by kotoko_s at 2017-02-24 09:32
☆fuskさん
書くことは考えることですね。
書きながら自分の頭や心の中を整理しているんだなと思います。
そういう作業がしたくてたまらないときと、したくないというかできないときとがあって、したくてたまらないときは混乱しているのだけれど、書くという行動に移せているぶん、健康というか力があるときだなと自分では感じています。
私も何か問題を感じた事柄について、他者の論評や見解を読むのはあとにします。色々な考え方や見方を知ることは必要だとは思いますが、まず自分の頭で考えたいなと。

fuskさんはものを作り出す方ではないですか!
いつもそう思って拝見しています。
Commented by PochiPochi-2-s at 2017-02-25 22:59
メイ・サートン、初めて聞く名前です。
読んでみたいです。
Commented by kotoko_s at 2017-02-26 22:14
☆PochiPochiさん
みすず書房から何冊か出ています。
ぜひ^^
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by kotoko_s | 2017-02-23 13:44 | 読む | Comments(7)

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