深呼吸

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ヘタだねえ、と嬉しく聞いていた鶯の声が
今年はあっという間に上手になってしまった。
毎朝「聞いて聞いて!」という感じで盛んにホーホケキョが降ってくる。

この春は急ぐなあ。
まだ朝夕は肌寒くてほっとするほどだ。
ゆっくりゆっくり、移ろってほしいのに。




母音      新川和江
―ある寂しい日私に与えて

信じていなさい
おまえののどとくちびるの温かさを
おまえが<あ>と言う時
どこかの暗い沼のふちの
葦のあいだで
澱んだ水が
<あ>
一万年にたったいちどの水泡(みなわ)を立てて独り言を洩らすと

信じていなさい
優しい死がこんやもおまえを抱きしめにくると
おまえが<い>と呟く時
かわいた川の
橋桁の
朽ちた楔(くさび)のほとりで
<い>
しめし合わせたようにしばし立ちどまる風があると

信じていなさい
痛みはおまえだけのものではないと
おまえが<う>と呻く時
真夜中の劇場の
楽器置場の片隅で
コントラバスが<う>
ひくく呻いて同じ苦痛の合槌を打ってよこすと

信じていなさい
おまえに名も無い多くの友がいると
おまえが<え?>問い返す時
遠い森のいっぽんいっぽんの木が
答えのかたちに枝を撓ませ
葉隠(ごも)りの小鳥たちが
<え?>
同じ疑問を一晩じゅうざわめきながら悩んでくれていると

信じていなさい
うたうことは決してむなしいことではないと
おまえが<お>と言う時
青草が
牡牛が
見えないものの影が
<お>
むっくり起きあがり おまえと一緒に歩き出すと




風景が明るすぎて。
心になにか呼びかけたくなるような朝。
             



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Commented by saheizi-inokori at 2015-04-29 11:06
いい詩です。
そういう気持ちを持ち続けたい。
Commented by kotoko_s at 2015-04-29 15:56
☆佐平次さん
「名も無い多くの友がい」て
「うたうことは決してむなしいことではないと」
信じていよう、と思います。
たいせつな詩です(^^*
Commented by hanamomo06 at 2015-04-29 17:40
新川和江さん、中学生の頃よんでいた雑誌に載っていて憧れでした。
それから時がたち、中学生の娘と一緒に行った東京でお目にかかりました。
言葉を大切にして話されている様子が印象的でした。

いい詩ですね。
あいうえお・・・・・言葉を大切にしたいですね。
今日は夏のようでした、でもさわやかでした。
一年巡るのが早いですね。
Commented by kotoko_s at 2015-04-29 21:23
☆momoさん
新川和江の作品にはいくつも好きな詩がありますが、これは特に思い出があります。
そうですか、momoさんも。私もお目にかかったことがあるんですよ。

こちらも今日は28度まで気温が上がりました。ちょっと早いですよねえ。
もう一年の3分の1が終わりますね^^;
Commented at 2015-04-30 10:03 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by kotoko_s at 2015-04-30 23:16
☆鍵コメさん
こんばんは。本当に良いお天気が続いていますね。続き過ぎですねえ^^
冬はじっとしているしかなく春を待ちわびるのですが、こうして一気に暖かく明るくなってくると、心も体も追いついていけないようで、ちょっと疲れが出てきますよね。
新川和江の詩、お好きでしたか。なんだか嬉しいです^^
「わたしを束ねないで」「ふゆのさくら」なども好きですが、この「母音」は、ゆっくり、繰り返し読みたくなる作品です。

絵日記もご覧くださってありがとうございます。
レストラン(と言っても、普段のお昼に気軽に入れる店)、実は私一人でした。でも、あの光景があまりにも印象深く、帰って夫に話しましたら、それは素晴らしい、と言ったので、実はそのことがもっとも嬉しかったことかもしれません^^
あのお二人のように老いていけたら幸せだなあと思いました。
こちらこそ、ありがとうございました(^^*
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by kotoko_s | 2015-04-29 09:52 | 読む | Comments(6)

 あれこれ


by haru
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