震えるアンテナ

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久しぶりに、この詩を読んだ。


汲む ― Y.Yに ―  茨木のり子

大人になるというのは
すれっからしになることだと
思い込んでいた少女の頃
立居振舞の美しい
発音の正確な
素敵な女のひとと会いました
そのひとは私の背のびを見すかしたように
なにげない話に言いました

初々しさが大切なの
人に対しても世の中に対しても
人を人とも思わなくなったとき
堕落が始るのね 堕ちてゆくのを
隠そうとしても 隠せなくなった人を何人も見ました

私はどきんとし
そして深く悟りました

大人になってもどぎまぎしたっていいんだな
ぎこちない挨拶  醜く赤くなる
失語症 なめらかでないしぐさ
子供の悪態にさえ傷ついてしまう
頼りない生牡蠣のような感受性
それらを鍛える必要は少しもなかったのだな
年老いても咲きたての薔薇  柔らかく
外にむかってひらかれるのこそ難しい
あらゆる仕事
すべてのいい仕事の核には
震える弱いアンテナが隠されている きっと・・・・・
わたくしもかつてのあの人と同じくらいの年になりました
たちかえり
今もときどきその意味を
ひっそり汲むことがあるのです





初めて読んだ十代の終わり頃
「人を人とも思わなくなったとき」、「堕落」などという言葉に
曖昧な恐れを抱いて身を硬くした。
この詩が好きだったかというと、そうではなかったのだと思う。
自分の中に、すれっからしになる素がすでにあることを知っていたからか。

それで忘れ難かったのか、読み始めたらほとんどを諳んじていた。


鋭い言葉を浴び、心がざらっとして
逃げるようにその場を離れたら涙がこぼれた、というようなことが
いい大人になった今でもたまにある。
もっとしゃんとしたかった。気の利いた反撃のひとつもお見舞いしたかった!
でも、間に合わないのだ、いつも。


そんなとき、詩のことばに救われることがある。
しゃんと胸を張れなかった、それでよかったのかもしれない、と。
ひとの堕落よりも
見ていたいのは、自分の道だったことを思い出す。

咲きたての薔薇のように
風に吹かれながら、じっとここに立っていたい。
嗤われてもかまうものか。
震える弱いアンテナが
この胸の奥にも、どうか育ちますように。



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Commented by hanamomo06 at 2015-04-13 07:25
おはようございます。
昔から大の苦手の詩という分野。
詩がいいなあ~と思えたのは茨木さんの詩と出会ってからだと思います。
そして、そのずっと後になって、こうして同じ詩人の詩をわかり合える(私はまだまだじょのくちだけど)友とであって、少しずつ自分の歩みに照らし合わせて読むことができるようになったことにとても感謝しています。

昨日私にもちょっとそんなことがありました。
嘘をつくのは簡単だけど、テキトウに口を合わせているのもそう難しくないけれど、正直に話したことは後悔していません。
>でも、間に合わないのだ、いつも。
我が母とよく似ています。
母はいつもそうでした。
だけど、ちゃんと周りの人たちの中には温かく母を理解してくれる人がいたのです。
>そんなとき、詩のことばに救われることがある。
詩を読むことなんてなかった(・・・と思う)母はどんな風にして自分を救ってきたのかな?と考えました。
そんなに強い心の持ち主ではないので、何かな~といまだになぞです。
咲きたての薔薇のように・・・・・嗤われたってかまうものか。
もうすでにkotokoさんの心にはしっかりとアンテナが育ち始めているのだと思います。
Commented by kotoko_s at 2015-04-13 17:51
☆momoさん
茨木のり子の詩は言葉がストレートに届くような印象がありますね。
最近になってからのほうが、親しく読めるようになった気がします。

私は率直に話すほうだと思っていますが、言葉そのものにちょっとこだわりが強いのかもしれません。
笑って流せばいいところも、カタマッテしまって^^;

お母様のお話を伺って、なにかとてもほっとしました。
momoさんのお母様への温かいまなざしも。素敵ですね。
私は自分の幼さ、不器用さをずっと恥ずかしく感じてきたのですが、恥じることはないのですよね。

情けないつぶやきに、温かなコメント嬉しかったです。ありがとうございました(^^*
Commented at 2015-04-16 20:13
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by kotoko_s at 2015-04-16 22:47
☆鍵コメさん
「今の時代に思春期を生きていたら・・・」―たしかに、そうかもしれないと私も思いました。
この詩に出会った頃、平気そうに生きている人が不思議だったものです。
私も剥きたての生牡蠣ですよ^^それでも、今の時代に較べたら、ね。

茨木のり子と同年代の義母は、詩を書きませんでしたが、土に生きました。
すごいことだと思っております(^^*
Commented at 2015-04-21 08:13
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by kotoko_s at 2015-04-21 22:02
☆鍵コメさん
こんばんはー^^数日、里帰りして、今夜戻りました。

私も「もっと強くならねば」とずっと思っていて、今でもしばしばそう思ってしまふのです^^;
でも、その弱さというかダメさ加減というか、自分では恥じている部分を愛してくれている奇特な人もいるなあと。
私自身も、人のそういう部分に惹かれるような気がします^^

義母のこと、そんなふうにお伝えくださって本当に嬉しいです。
数日間いなかっただけですが、会うなり留守中のあれこれを報告してくれる義母がめごかったです(^^*
Commented by saheizi-inokori at 2015-04-23 09:52
気の利いた反撃などしないで、震えながらも心の中にアンテナをもっている人、いちばん憧れます。
同時にちょっと畏敬の気持ちを抱きます。
Commented by kotoko_s at 2015-04-24 07:41
☆佐平次さん
昔、「ほんとにマジメなんだねぇ」と揶揄されるように言われ落ち込んでいたら、恩師に「なにを落ち込むことがある。もっと真面目を追求しなさい」と言われ、救われたような気持になったことを思い出しました。
子ども時代の無垢ではない、大人になって磨き続けるアンテナがあるのでしょうね。うれしい気持になりました(^^*
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by kotoko_s | 2015-04-11 01:17 | 読む | Comments(8)

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