「ある精肉店のはなし」

先日、4泊5日で里帰りした。
1月に行ったときからたった3ヶ月だというのに、親の老いはどんどん先へ進んでいて、その速さについていけない。
それでも、ここはというところに傾ける気力・体力がまだ多少はある母が「また今度でもいいわよ」と言う映画を(私の分のチケットも購入済みだった)、父と3人で観に出かけた。
また今度、はないのとおんなじ。親と映画館に行くというのもこの先ないかもと思うが、この映画が公開されている場所にいるということが、私には奇跡だった。

「ある精肉店のはなし」(監督:纐纈<はなぶさ>あや プロデューサー:本橋成一)はドキュメンタリー映画だ。
大阪貝塚市。住宅街を、一頭の牛が男に引かれて歩いていく。屠畜場に着く。
生きていた牛が解体され店頭に並ぶまでの一部始終を、私は初めて知った。
ダメだろうな、見ていられまい、と思ったが、最後まで目をそむけずに見た。
牛のからだというのはきれいなものだなあと思った。きれいに育てられた牛だ。
丹念になめされた皮は、だんじり祭りの太鼓に姿を変える。屠畜解体という技術の見事さ、牛のいのちに真剣に向き合う人たちに見惚れた。

7代目を受け継いだ兄弟の胸には、被差別部落ゆえのいわれなき差別を受けてきた亡き父親の姿がいつもある。
長男が集会で淡々と話す言葉が印象に残る。先生と呼ばれる人たちと、牛を屠畜し解体して売る肉屋と、どこが違うのでしょう。
この大家族の自然な姿にどんどんひきこまれていく。ユーモアがあり、ひたむきで、しみじみとやさしいひとたち。特に女たちが素敵なんだなあ。


関西ではないが、子どもの頃に引っ越して住んだ村で、初めて部落のことを知った。隣の家がそうなんだよ、と大人が話しているのを聞いた。だが、うちではそういうことは関係なかった。よく遊びに行った。またよそに越していくまでの数年間、そのおうちの人にはよくしてもらった。
ほかにもそういう話が身近にいくつもあった。家の本棚で「ふたつの傷あと」や「橋のない川」を読んで、子どもながらにあれこれと考えた。
どうして世の中にはこんなことがあるんだろう、なんでなくならないんだろう。

奥会津に来たばかりの頃、私は道端の立て札にびっくりした。
『部落内徐行』

一瞬、目を疑った。このへんではこう呼ぶのか。ムラのひとに訊くと「そうやあ、どこでもそうでねぇのが」
部落とは単に集落のことだった。東北には、被差別部落というものがないと知ったのは、もっとあとになってからだ。



このドキュメンタリーは、そんなことを声高に訴えてはいない。
しなやかで、たくましくて、ありがたくて、いいひとたちに会わせてもらったと思う。見終わって、すがすがしくあたたかな余韻に包まれた。
最後の場面がまたいい。朝日を迎える店先。ああ、美味しいお肉が食べたい。
タイトルの下にある「いのちを食べて いのちは生きる」―ほんとうにそうだった。ありがとう、いろんないのち。
私も、このいのちを、元気に生きよう。

「ある精肉店のはなし」


※ 「東北には被差別部落はない」と書きましたが、認識不足だったことがわかりました。よく確認せずに書いてしまったことをお詫びいたします。(2014.5.16付記)

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Commented by mi-mamam1 at 2014-05-01 20:44
部落…そうなんです。福島にはその発想はない。私は大学でその差別を知りました。義妹は知らないままに東京で就職してから「部落」のことで大失敗をし、知らなかったんだもん~と泣いていましたっけ。

福島に今暮らしている人たちは、もちろん私も含めてですが、他の地域の方から観れば「フクシマ」の人となっていくのかと、心配です。福島にはその発想がないから、そう思われていても気づかないでしょう?
私たちは、何も悪いことをしていません。部落と呼ばれる地域に住む人と同じように。福島の良いところ、kotokoさんのブログで再発見しました。ありがとうございます。この映画も、雪の女王も観たいです。
Commented by kotoko_s at 2014-05-01 23:10
☆ mi-mamamさん
そうなんですね。東北、福島にはその発想はもともとないのですね。
私は10代の多感な頃、大人になったら差別のない社会をつくる仕事をする!とひそかに決心したものでしたが、社会よりいまだに自分のことにかまけているなあ。
私は「フクシマ」とカタカナで呼ばれることにとても抵抗があります。では、「ヒロシマ」「ナガサキ」「オキナワ」はどうなんだ、と自分自身に問うのです。
今日、テレビで地方の若い人が東京に行ってしまう、という話をやっていて、全国の人口分布図みたいなものが出たのです。福島県だけ、ないんですよ。データがとれないのでしょうね。ショックでした。
「ある精肉店のはなし」は、リンクを覗いていただくと、6月に郡山で1日だけ上映されるようです。この映画のプロデューサー本橋成一さんは、チェルノブイリ事故後のベラルーシに入って「ナージャの村」「アレクセイと泉」を撮った方です。ご覧いただけたらいいな。
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by kotoko_s | 2014-04-28 13:59 | 観る | Comments(2)

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